糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)は、糖尿病によって引き起こされる代表的な合併症のひとつです。
糖尿病は、膵臓から分泌されるホルモン「インスリン」の働きが弱くなることで、ブドウ糖が細胞に取り込まれず、血液中に余分な糖がたまる状態(高血糖)が続く病気です。
この高血糖状態が長く続くと、全身の血管が徐々に傷ついていきます。
とくに細い血管が多く集まっている「網膜(目の奥の光を感じる部分)」は影響を受けやすく、血流が悪くなることで視力の低下や失明の危険をもたらすのが糖尿病網膜症です。
糖尿病網膜症は、
- 糖尿病神経障害
- 糖尿病腎症
と並び、糖尿病三大合併症のひとつに数えられます。
発症の特徴
糖尿病を発症しても、すぐに網膜症が起きるわけではありません。
無治療のまま高血糖状態が続くと、おおむね7〜10年ほどで発症するといわれています。
しかし、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。
進行してから初めて以下のような症状が現れることがあります。
- かすんで見える(霧視)
- 歪んで見える(歪視)
- 飛蚊症(黒い点や糸くずのような影が見える)
- 視力の低下
さらに悪化すると、網膜の血管が詰まったり、もろい新しい血管(新生血管)ができて出血したりすることで、最終的に失明に至る場合もあります。
自覚症状が出るころにはすでに病気が進行していることが多いため、糖尿病と診断された方は、症状がなくても定期的に眼科検診を受けることが大切です。
検査について
糖尿病網膜症が疑われる場合、以下のような検査を行います。
- 眼底検査:網膜や血管の状態を観察します。
- 光干渉断層計(OCT)検査:黄斑(視力の中心部分)のむくみ(黄斑浮腫)の有無を調べます。
- 光干渉断層血管撮影(OCTA): 造影剤を使用せず血流の途絶や新生血管の有無を詳しく確認します。
- 蛍光眼底造影検査:造影剤を使用し血流の途絶や新生血管の有無を詳しく確認します。
これらを総合的に判断して、病期(初期・中期・進行期)を診断します。
治療について
糖尿病網膜症の治療は、進行の段階によって異なります。
初期(単純網膜症)
自覚症状がほとんどなく、特別な眼の治療は不要なことが多いです。
血糖コントロールを徹底することが最も重要です。
中期(増殖前網膜症)
この段階でも症状は軽いことが多いですが、
血管の閉塞部分が増えると新生血管が発生しやすくなります。
そのため、レーザー光凝固療法によって血流が途絶えた部分を焼き固め、
新生血管の発生を防ぎます。
進行期(増殖網膜症)
新生血管がすでに形成されている場合は、光凝固療法で新生血管を焼灼して悪化を防ぎます。
硝子体(しょうしたい)に出血がある場合は、硝子体手術を行い、出血や濁りを取り除きます。
同時に、血糖のコントロールも欠かせません。
早期発見・継続的な管理が大切です
糖尿病網膜症は、一度進行すると視力を取り戻すことが難しい病気です。
しかし、早期発見と適切な治療によって進行を防ぐことは可能です。
糖尿病と診断された方は、
- 定期的な眼科受診(少なくとも年1回以上)
- 医師の指導に基づいた血糖コントロール
を続けるようにしましょう。